菫色の裏庭


薄く光が差していて
蒼く頬を染めていて
目蓋の血の流れが
黒ずんで凝り固まる
誰が彼を殺したの

<黒猫の証言>
ぼくは見たよ
夕暮れの菫色した空の下
あの子が硝子壜を持っていた
あれは何だろうね
母親の鏡台に並べてある
たくさんのそれに似てる
え? だってぼくは
窓辺の塀が散歩道なんだもの

子どもの身体は
容易く天に昇るもの
敬虔な聖職者は
そんな悲劇がお好み
神が彼を殺したの

<夏ばらの証言>
あたし見たわよ
倒れたあの子が持っていた
きれいな硝子壜から
液体が滴った
それを浴びたあたしの友達
菫色に染まったわ
でもどうしてかしら
あの子といっしょに
枯れてしまったの

無垢なものは狂おしい
美しい微笑みと
優しいいたぶりに
削られてゆく背中
彼女が彼を殺したの

<僕の証言>
僕は知っていた
蜘蛛の糸が
身体に巻きついていること
菫色の硝子壜の中の
小さな泡を見つめていた
明るくも暗くもない
部屋の窓辺で
曖昧で気まぐれで憂鬱な
愛と死を数え続けてた
そんな彼の薄い影を
踏みつけたのは僕

南の海の魚の夢は
彼を迎えてくれたかな
内側から発光する青白い肌
蒼い世界の真昼の月
弱く淡く光ってた
僕が彼を殺したの


2008/10/09



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