無機世界より音は降る


どうか足下を見ないでください
土で汚れた靴が
野の花を踏みつけているかもしれません
絶望は罪ではないけれど
哀れんで立ち止まることを
あなたの小鳥は許すのでしょうか

目には見えない薄い膜に包まれていること
触れることもできず
感じることもできず
途方に暮れる日があるのなら
深く死んだようにお眠りなさい
過去に舞い戻って
幼いあなたを抱きしめてあげてください
甘い匂いがするでしょう

ただ歩いているだけではいけません
花を一本一本摘みながら
次第に重くなっていく腕を感じてください
それは足かせのように
安易に飛び立てないことを自覚させるでしょう
碧い楽園に辿り着くためには
たくさんの涙が必要なのです

飴も毒も飲み込んで
どれだけのものが残せるのでしょうか
雲間から溢れる光
跳ねる魚の背
優しい瞳の細やかな虹彩
その一瞬のきらめき
誰かのぬくもり
惜しいと泣くことがありませんように


2011/10/11



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