ばらとゆり


あじさいを植えましょう
“だめだめ、ばらじゃなくっちゃ
ばらは女王なのさ
ドレスのように絢爛な花びらをごらんよ
夜露を乗せた輝きに勝るものなどあるものか
芳香は夢の中へと誘うかのようだ
葉や茎の形状もこの上なくすばらしい
あじさいなどがくが出しゃばっているだけじゃないか
渦の殻をもった輩がよく引っ付いているし
ああ、だめだめ
じめじめとした女のようだ”
それならひまわりにしましょうか
からりと元気な立ち姿は美しいわ
ばらは世話がかかるのだもの
“だめだめ、ならばゆりにしなさい
白く大きなゆりにしなさい
蕾がめくれ上がる瞬間は何にも増して麗しい
強い香りに黒い妖精が集まり
命の源を吸い上げるような光景は退廃の極み
朽ちていくさまもまた美しい
ひまわりなど天に届かんとする姿勢がいやらしい
自らが太陽だと主張するかの如き様相には
心底嫌気がさす
小麦色の肌の女のようだ”
そこまで仰るのでしたら
ばらとゆりを植えましょう
ぼたんとしゃくやくは
あなた、どうされますの
“焼き払ってしまえばよい
そもそもきみが低俗な花が好きだとは”
あら、あなたとおはなしをしたいから
わざと言ってみただけよ
あなたはわたしを嫌いになって?

猫を抱いてまどろむ
少女と女の狭間をさまよう彼女
幼きころの無邪気な笑顔は消え失せ
かつて野山を駆け回った草の香りは麝香の渦に沈み
不穏な微笑をたたえる生物に変化しつつある
地に落ちたまばゆさはほの青く彼女の肌を発光させ
閉じた目蓋の境目で涙がたゆたう
今この瞬間だけは
幼いころに戻りなさい
世界の全てを愛していた彼女に
あなたの心は澄んだ水のように純粋だから
わたしたちはあなたを引き込んだりはしない
薔薇よ百合よ 彼の永遠となれ
不埒に咲け
わたしたちの命を吸い尽くして


2010/05/01



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